FIP(猫伝染性腹膜炎)の症状、原因、診断、治療について ②|愛知県あま市のあま動物病院
愛知県あま市、名古屋市、大治町、清須市、津島市、稲沢市、愛西市、三重県の皆さまこんにちは。
愛知県あま市のあま動物病院、獣医師の関です。
前回のFIP(猫伝染性腹の膜炎)の症状と原因に続いて今回は、診断方法について解説いたします。
3. FIP(猫伝染性腹膜炎)の診断について
猫伝染性腹膜炎(FIP)には、それだけで診断がくだせる検査が存在しません。また、症状も食欲不振、発熱などFIP以外の病気でもよく認められるような症状のため、FIPの診断には、症状や年齢、臨床経過、複数の検査を行なって総合的に診断します。
猫伝染性腹膜炎を疑う場合、次のような検査を行うことがあります。
全血球検査
貧血の有無や、脱水、白血球の数などを確認する検査です。
FIPの猫では軽度~中程度の貧血や白血球の増加が見られることが多くなります。
生化学検査
FIPの猫ではグロブリンというタンパク質増加が認められることが多く、ウェットタイプの50%、ドライタイプの70%で認められます。ただし、グロブリンはその他のウイルスの感染や炎症でも増加することがあるため、診断の一助にはなりますが、これだけでは診断とはなりません。その他に、黄疸の数値であるビリルビンの上昇や炎症の数値であるSAAやAGPの上昇もFIPでは頻度が高く認められます。臓器の障害によって肝数値の上昇や腎数値の上昇なども認められることがあります。
血清蛋白電気泳動
高グロブリン血症が見られた場合に実施することの多い検査です。血清中の蛋白質にも種類があるため、特定の蛋白質の異常な増加や減少が特定の病態を示唆することがあります。猫伝染性腹膜炎の猫では、「多クローン性γ-グロブリン血症」と呼ばれるパターンが見られることが多いため、これも診断の一助に役立ちます。
抗体価検査
FIPでは、猫コロナウイルス(FCoV)の血清抗体価が高くなることが多く、診断の補助検査として用いることがあります。ただし、猫伝染性腹膜炎ではないFCoVの感染でも高い値を示すことがあり、また、FIPVのウェットタイプでは、著しくウイルス量が多くなり、抗体とウイルスが結合して抗体価が低くなることがあるため、あくまで補助の検査という位置づけとなります。
PCR検査
コロナウイルスの遺伝子を検出する検査です。FCoVとFIPの区別はつきませんが、通常猫コロナウイルス(FCoV)は腸管内にいるため、胸水や腹水などを用いたPCR検査でコロナウイルスが検出された場合には、FIPの可能性が高くなります。血液においても、FIPの可能性は高いものの、FIPではない猫においても検出されることがあるため、検査結果の解釈には注意が必要です。
滲出液の検査
ウェットタイプの場合、胸の中やお腹の中に滲出液が貯留します。この滲出液を検査することで診断精度はかなり上がります。FIPの滲出液は高タンパクですが、細胞成分は少なく、マクロファージと好中球が主体となります。
リバルタ反応
ウェットタイプの場合、胸水や腹水を採取してリバルタ反応という試験をすることができます。
院内で特殊な機器などを使わなくても検査でき、院内ですぐに検査結果が出るため利便性が高い検査です。
FIPに対する感度(FIPの猫が陽性になる確率)86%、特異度(FIPではない猫が陰性になる確率)96%であるとされ、非常に有用です。
ただし、ウェットタイプではないとできない検査で、FIP全体のうち腹水や胸水が認められるのは51%とされています。
免疫蛍光抗体法によるウイルス抗原の検出
胸水や腹水を採取して、それを用いて液中のマクロファージの中のウイルス抗原を免疫蛍光抗体法という方法で検出します。
マクロファージ内のFCoV抗原が検出されるのはFIPのみとされ、陽性的中率(検査結果が陽性の時に実際に陽性の確率)100%の検査です。ただし、陰性的中率(検査結果が陰性の時に実際に陰性の確率)が43%とされ、陰性という結果の場合には注意が必要です。これは滲出液中のマクロファージ量が少ないとFIPVに感染していても、うまく検出されないためと考えられています。
そして、この検査もリバルタ反応同様にウェットタイプでしかできない検査です。
免疫組織化学染色
FIPではお腹の中などに肉芽腫という組織の塊を作ることがあります。滲出液を伴わないドライタイプの場合には、この病変部を生検して、免疫組織化学染色を用いて採取した組織の中のFCoV抗原の検出を行います。この検査も陽性的中率は100%ですが、まとまった組織を採取しなければならないため採取に際し、猫に負担がかかることがあります。また、結果が陰性の場合でも陽性の可能性は残ります。
レントゲン検査・エコー検査
胸水や腹水、肉芽腫性病変がないかの確認をおこないます。また、他の疾患の可能性が無いかの確認のためにも必要な検査となります。
4. FIPの治療方法について
5. 当院のFIP治療について
については次のページで解説します。